不動産を売却して利益(譲渡所得)が出ると、国民健康保険・後期高齢者医療保険・65歳以上の介護保険料は、翌年度に上がる可能性があります。一方、会社員が加入する健康保険・厚生年金の保険料は給与で決まるため、売却しても上がりません。
この記事では、加入している保険ごとの影響、保険料がいつからどれくらい上がるのか、上昇を抑える対策までを分かりやすく解説します。
加入している保険別:不動産売却で保険料は上がる?
保険料が上がるかどうかは、どの公的保険に入っているかで決まります。所得をもとに保険料を計算する保険は上がる可能性があり、給与をもとに計算する保険は上がりません。
| 加入している保険 | 主な対象者 | 売却益で上がるか |
|---|---|---|
| 国民健康保険 | 自営業・フリーランス・退職者など | 上がる可能性あり |
| 後期高齢者医療制度 | 75歳以上 | 上がる可能性あり |
| 介護保険(第1号被保険者) | 65歳以上 | 上がる可能性あり |
| 会社の健康保険・厚生年金 | 会社員・公務員 | 上がらない |
| 国民年金 | 自営業・学生など | 上がらない(定額) |
会社員の健康保険・厚生年金は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与で保険料が決まります。不動産の売却益は給与ではないため、保険料には影響しません。
注意したいのは、売却時は会社員でも、翌年度に退職して国民健康保険に切り替わる人です。国保の保険料は前年の所得で計算されるため、退職と売却が重なると保険料が大きく上がることがあります。
保険料の計算に使われるのは「譲渡所得」
保険料に影響するのは売却価格ではなく、利益にあたる「譲渡所得」です。売却で利益が出なければ、保険料は上がりません。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除
取得費は購入代金や購入時の手数料(建物は減価償却後)、譲渡費用は仲介手数料や測量費などです。
3,000万円特別控除を使えば影響しないことが多い
マイホームの売却で「3,000万円特別控除」を使えるなら、利益が3,000万円以内であれば国保の保険料に影響しないことがほとんどです。多くの自治体では、国保の所得割を特別控除後の譲渡所得で計算するためです。
ただし低所得世帯は「軽減判定」に注意
保険料の均等割を7割・5割・2割軽減するかどうかの判定には、特別控除前の譲渡所得が使われます。これまで軽減を受けていた世帯は、課税される所得がゼロでも軽減が外れ、保険料が上がる可能性があります。
相続した実家や投資用の物件など、特別控除を使えない売却では、譲渡所得がそのまま保険料の計算に加わります。計算方法は自治体によって違うため、売却前にお住まいの市区町村の国保窓口で確認しておきましょう。
保険料はいつから、どれくらい上がる?
保険料が上がるのは、売却した年の翌年度の1年間だけです。たとえば2026年に売却した場合、2027年の確定申告をもとに、2027年6月ごろから届く2027年度の保険料に反映されます。翌々年度は売却益がなくなるため、元の水準に戻ります。
試算例:国民健康保険(横浜市・令和8年度の料率)
45歳・単身で、ほかに収入がない人が、特別控除の使えない土地を売却したケースで計算しました。料率は横浜市の令和8年度保険料率(医療分・支援分・介護分・子ども分)を使っています。
| 譲渡所得 | 年間の国保料(目安) |
|---|---|
| 0円(売却なし・7割軽減) | 約2.2万円 |
| 500万円 | 約71.8万円 |
| 2,000万円 | 113万円(上限) |
譲渡所得が大きいと、保険料は年間の上限額に達します。2026年度の国保の上限は、子ども・子育て支援金分を含めて113万円です。75歳以上の後期高齢者医療制度の上限は87.1万円です。
※保険料率や計算方法は自治体ごと・年度ごとに異なります。実際の金額は市区町村の試算サービスなどで確認してください。
保険料以外にも注意:扶養や医療費の負担割合への影響
売却益は、保険料だけでなく扶養や自己負担の割合にも影響することがあります。売却前に、次の点も確認しておきましょう。
- 健康保険の扶養:会社員の家族の扶養に入っている人が売却しても、売却益は一時的な収入として扶養の判定から外されるケースが多いとされます。ただし判断は健康保険組合ごとに違うため、勤務先や健保組合に確認が必要です。
- 税金上の扶養(配偶者控除):税金の扶養は特別控除前の所得で判定されるため、売却した年は配偶者控除・配偶者特別控除が受けられなくなる場合があります。
- 65歳以上の介護保険料の段階:介護保険料は所得に応じた段階で決まります。譲渡所得が加わると、翌年度の段階が上がることがあります。
- 医療費・介護サービスの自己負担割合:70歳以上の医療費の窓口負担や、高額療養費・介護サービスの負担区分は所得で判定されます。売却益によって、翌年度の負担割合が上がる場合があります。
- 住民税非課税世帯の優遇:非課税世帯でなくなると、給付金や各種減免の対象から外れることがあります。
どの制度も「特別控除前・後のどちらの所得で判定するか」が異なります。高齢の親の家を売る場合などは、特に事前の確認が大切です。
不動産売却で社会保険料を上げないための5つの対策
対策の基本は「譲渡所得を正しく小さくすること」と「所得で保険料が決まらない保険にいること」の2つです。
- 特別控除を漏れなく使う:マイホームの3,000万円特別控除や、相続した空き家の3,000万円特別控除など、使える特例がないか確認しましょう。どの特例も確定申告が適用の条件です。
- 取得費と譲渡費用を漏れなく計上する:購入時の契約書や領収書が見つからないと、取得費を売却価格の5%で計算することになり、譲渡所得が大きくなります。仲介手数料、測量費、解体費なども忘れずに差し引きましょう。
- 退職のタイミングと売却時期を考える:会社員のうちに売却すれば、在職中の保険料は上がりません。退職後に国保へ切り替わる予定なら、売却の年と退職の年が重ならないように計画するのも一つの方法です。
- 退職後は「任意継続」を検討する:退職後も最長2年間、会社の健康保険を続けられる任意継続被保険者制度があります。保険料は退職時の給与をもとに決まるため、売却益の影響を受けません。
- 家族の扶養に入れるか確認する:家族が会社の健康保険に加入していれば、扶養に入ることで自分の保険料負担がなくなる場合があります。
すでに他の所得で国保料が上限額に達している人は、売却しても保険料はそれ以上増えません。
よくある質問(FAQ)
Q. 不動産を売却して損が出た場合も保険料は上がりますか? A. 上がりません。譲渡所得がマイナスやゼロなら、保険料の所得割は増えません。
Q. 会社員ですが、売却で健康保険料は上がりますか? A. 上がりません。会社の健康保険・厚生年金の保険料は給与と賞与で決まるため、売却益は関係ありません。
Q. 保険料が上がるのは何年間ですか? A. 売却した翌年度の1年間だけです。翌々年度には元に戻ります。
Q. 3,000万円特別控除で税金がゼロなら、確定申告は不要ですか? A. 必要です。特別控除は確定申告をしないと適用されません。申告しないと、保険料の計算でも控除が反映されない恐れがあります。
Q. 年金生活の親が実家を売ると、保険料はどうなりますか? A. 75歳以上なら後期高齢者医療の保険料、65歳以上なら介護保険料が上がる可能性があります。特例が使えるか、売却前に税理士や市区町村の窓口で確認しましょう。
まとめ:売却前に「自分の保険」と「特別控除」を確認しよう
不動産売却で社会保険料が上がるのは、国民健康保険・後期高齢者医療・65歳以上の介護保険に加入していて、特別控除後も譲渡所得が残る場合です。上がるのは売却した翌年度の1年間だけで、会社員の健康保険・厚生年金には影響しません。
売却前に特別控除が使えるかを確認し、取得費や譲渡費用を漏れなく計上しましょう。退職の予定がある人は、売却と退職のタイミングもあわせて考えるのがおすすめです。
※本記事は2026年10月時点の制度をもとにした一般的な解説です。個別のケースは税理士や市区町村の窓口にご確認ください。










